ヒロミチ・ナカノ

あるとき、青木さんから
ヒロミチ・ナカノのキャラクターで
動物の絵を探しているんだけど
描いてみないかと依頼があった。

それは初めての仕事らしい仕事で、
喜び勇んでマックの前にかじりつき、
言われたとおりに何種類もの
動物の絵を描いて持っていった。
やっぱりクマの絵がいいということになり、
今度はいくつものポーズを
描いてこいということになる。
何日もかけてああでもないこうでもないとクマの表情に
苦心しながら何枚もの絵を描きあげて持っていく。
青木さんは、絵を見ると満面の笑みを浮かべ、
「いいねえ。これ、使わせてもらうよ」
と言ってくれた。

しばらくして、ヒロミチ・ナカノの
キャラクターマークが出来上がってきた。


そこには、ぼくが苦労して描いた表情が消され、
目がh・nの文字に変わっているクマの絵があった。
ご丁寧にも、すべてのクマの顔がh・nになっていた。
出来上がったものを見て、
ぼくはかなり打ちひしがれていたが、
例の笑顔で「すごく良くなったでしょ」
と言う青木さんに、ただうなずくしかなかった。

仕事というのは、こういうことも
受け入れていかなくてはいけないんだということを、
身をもって感じた瞬間だった。


イラスト:久保誠二郎 文:石川勝己



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