酒は飲んでも飲まれるな

それ以来青木さんとの関係がぎくしゃくするようになり、
サンアドの社員の人たちもその空気を察したのか、
ぼくを囲んでささやかな酒宴を開いてくれた。
その会で、ぼくは飲むにつれ気が大きくなり、
調子に乗って青木さんに対する不満をぶちまけては
周囲の笑いを誘っていた。

翌日、二日酔いでぼーっとしているぼくの前に
カセットテープが差し出された。
再生してみると、青木さんに対する
信じられないような悪口を言っている、
ぼくの声が流れてくる。
人の悪い社員の人がいたずらで録音していたのだ。
その場は慌ててテープをしまい込んだが、
その手の話はすぐに伝わるもので、
数日後、青木さんから「こないだのテープは二本あって、
もう一本は俺が持っている。酒の上でのことだし、
怒らないからそっちも聞かせてくれないか」と言われ、
もう一本あったなんて聞いてないなと訝りながらも、
素直なぼくはテープを差し出した。
しかし、青木さんが仕事で表に出たあと、
なにげなくテープを録った人にその話をすると、
テープは君に渡したやつだけだと言う。
それからは仕事が全く手に着かず、
青い顔をして家に帰った。

翌日、悶々として眠れずに赤い目をして会社に行くと、
青木さんはすでに仕事にかかっていた。
そのまま帰ろうかとも思ったが、
仕方なく自分の席に着き、
知らん顔して仕事に取りかかる。
パソコンの画面を見ているふりをしながら
青木さんの様子をうかがうと、
ぼくの方に近づいてきている。
どんな叱責を受けるかとどきどきしていたが、
青木さんはテープのことはおくびにも出さず、
仕事の指示をすると席を離れていった。

それからテープの話題は出ることはなく、
聞かなかったのかと安心してすっかり忘れていたが、
何ヶ月もたって二人で飲んでいた時、
青木さんは突然そのテープの話を持ちだし、
顔を紅潮させた。その夜ぼくは、
人生の中で一番というくらい、死ぬほど怒られた。

イラスト:久保誠二郎 文:石川勝己




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